借り入れ5件で神田の闇金融を利用し、トイチを体験

37歳で起業し、10年目を迎えた頃,西暦2000年、知り合いのいくつかの企業が上場していた。その1年ほど前に私の会社にもその頃脚光を浴びていたファイナンス会社から出資の打診が来た。
彼がいう。
「社長がその気になれば,1週間をで2億持ってきます」
「その代わり、死ぬ気になって頑張ってください」
そう言われた私は,会社の人材や、運営状況を考えて,そのときは,それほど資金的に困っていたわけでもなかったし、当時でのメンツではとても上場など考えられなかった。そこでその申し入れを断ってしまった。あの時,出資の申し入れを受けていれば,1年後に闇金融に追い込まれることもなかったであろう。

 僅か1年後に,得意先だった企業の社長が交代することになり,月1000万円程度の売上げがなくなってしまった。青天の霹靂とはこのことであった。悪い時には,悪いことが重なるもので、会社の資金難を見て、出資者が手を引き始めだした。私の会社は一気に資金難でどうしようもない所まで追い込まれてしまった。

 クレジットカード会社から200万円、表の金融会社から借り入れ5件、200万円ほど借り入れていた。あの時,出資を受けていたらこんなことになっていなかった。しかし後の祭りだ。会社をつぶしたくはない、その一心で私は裏金融に手を出してしまった。

 私が行き着いた場所は神田の駅裏である。神田には闇金融会社が集まっていた。周辺に近づくと怪しげな看板が目に入る。怪しげなビルのひとるの扉を開けた。如何にもと言う若い兄ちゃんが私に色んなことを聞いてきた。
「とりあえず,30万円貸そう」と言う,
「30万円では何の役にも立たない」っと私、
「1週間後に返済してくれたら、その時は増額しますよ」
利息は,「トイチ」だそう。10日で10%だという。なんと利息だ。月にすると,45%ほどになってしまうではないか。しかし、それでも借りるしかないほど追い込まれていた。

 1週間後に,返金して,30万円に増額になった。でも、30万円では何の足しにもならない。4件ほど回って100万円ほど借りたが,そうなると,1週間で10万円の利息だ。月にすると40万円以上の利息になる。10毎の返済だから、週に何日も神田に出かけることになる、厄介な話である。仕事が手につかなくなる。そうこうしているうちに,うちが皆引き受けますから一旦他を清算してみたらと言う所が表れて,その通り,そこ一社にすることにした。それからはその坊主頭の兄ちゃんだけとの付き合いになった。最終的に,200万円ぐらいになっていたと思う。

 今から考えると本当に馬鹿らしいことを繰り返していた。結局100万円が最終的に200万円程度になり,月に利息だけで80万円を払うと言う日々が数ヶ月続いた。利息だけでも,数百万円払っていたことになる。社用車も利息代わりに取られてしまった。

 当時,地元と東京に事務所があり,週後半を地元で過ごしていたが,その地元のマンションは手放した。そして、社用車も売却することになった。
 結局こんな状態で,会社は倒産した。従業員は1年前には30名ほどいたが倒産当時は10名ほどであった。それでも、顧客もあり,会社更生法でなんとか会社再生の道を選ぶことにした。借金をまとめて弁護士に提出した。弁護士は債券者に連絡をし,闇金融にも連絡がいった。弁護士の連絡は、債権者集会の連絡である。

 闇金のお兄ちゃんが怒鳴り込んできた。一社で肩代わりしてくれた兄ちゃんだ。それまで乗客だった私の所へ来て、
「社長,何すんや。こんな連絡よこして,どういうつもりなんや」屋上に連れ出された私は、こう凄まれた。もう、私は色んな債権者や銀行のクレーム,裁判所の差し押さえなど、色々経験してきたから、結構,度胸も座ってきていたが,このときはさすがに、ただ怖かった。

 しかし、もう今となっては払うお金など,1円たりとも出ない。何を言われて黙るしかない。それまで、その闇金の兄ちゃんは私に非常に好意的な態度であった。当然と言えば,当然だ。毎月数百万円お利息をキチンと払っていたのだから、当然と言えば,当然なのだろうが。馬鹿な話であるが私も彼に対していい印象を持っていたのである。まぐろ漁船に送るとか、親戚中に引きづり回すとか言われたが、反応がない私をみて、諦めたのか,その日は引き上げていった。

 それでも、債権者集会があり,地元の事務所を占め,社員を殆どやめてもらって、残った4名だけで,一杯の荷物を抱えて、小さな事務所に移った。入りきらない荷物は債権者の中で引き受けたくれそうな人に引き取ってもらった。しかしその半年後、私は会社の再生を断念することにした。もう続けるだけの売上げが上がらなかった。

 しかし、闇金のお兄ちゃんはあの日以来,何の連絡もなかった。結局最終的には,書類上は、200万円ぐらい残っていることになっていたと思うが,一銭の要求もなかった。しかしあの当時,事務所を移ったり、アパートも新しい所に移ったりして、収入が何もなかったわけではなかった。闇金の兄ちゃんがしつこく迫ってきたら、半分ぐらいの回収は十分で北であろう。今までトータルで考えると損をしていないから諦めたのであろうか。それとも私との友情に免じて許してくれたのだろうか。それは永遠の謎である。